~健康のためにもミュージアムに行こう~
芸術の秋、美術館や博物館に 行こうと考えている人は多いのではないでしょうか。文化芸術鑑賞は楽しいものですが、それだけにとどまらず、多くの健康効果があることが「博物館浴」の研究によって分かってきました。そこで、今回は「博物館浴」についてご紹介します。
| 国内で研究が進む「博物館浴」とは? |
博物館といえば、美術系や歴史系、考古系、民俗系、科学系、動物系など、さまざまな分野があります。自分の興味や関心がある博物館を訪れて、ワクワクしたり、リフレッシュしたりした経験はありませんか?「博物館に行くとエネルギーが湧く」「絵画を見るとなんだか癒される」といった声もよく聞かれます。
いずれもメンタルへの良い影響として捉えられますが、ワクワクや癒しなどの感情はあくまでも個人の「主観」であり、立証するには「エビデンス」(科学的根拠)が必要です。そこで国内で始まったのが、「博物館の持つプラス効果を人々の健康増進に活用する活動」である「博物館浴」です。遺品の問題が浮上します。
■博物館浴のロゴマーク

全国各地の多様な博物館を訪れた人々の、見学前後のリラックス効果を科学的に検証するため、2020年9月から「博物館浴」の実証実験を始めました。2025年9月9日現在、実施された博物館は99館、被験者は1,542人に上ります。博物館のジャンルは歴史系、美術系、民俗系、考古系、自然史系など幅広く、被験者の対象は中・高校生、大学生、社会人、高齢者と幅広い世代の方々です。
博物館浴に似た言葉として、「森林浴」を連想する人も多いかもしれません。森林浴の効果については、30年以上にわたる実証研究により、以下の6つのエビデンスが確認されています※1。
| 1.血圧や脈拍数が低下する(自律神経系) 2.睡眠が改善する(自律神経系) 3.気分が改善する(精神心理反応) 4.うつ状態が改善する(精神心理反応) 5.ストレスホルモンが減少する(内分泌系) 6.免疫力が高まる(免疫系) |
博物館浴では、森林浴研究における客観的な効果評価測定法をもとに、生理測定(血圧・脈拍)や心理測定(気分プロフィール検査「POMS」:質問紙法)が行われています。
※1 WAARM Journal.2023;5:17–32.
博物館の見学前後で血圧が改善 |
これまでの実証実験で分かってきたことの一つに、博物館浴による「レジリエンス効果」があります。レジリエンスとは、ストレスや逆境に直面したときに、それを乗り越え、元の状態に回復したり、さらに成長したりする力のことです。博物館浴によるレジリエンス効果の一つとして、「ヒトの恒常性が働く」という点が挙げられます。恒常性とは、もともとヒトの体が持つ外界の環境や体内の変化に対して、生命維持に必要な体温、血圧、血糖値、呼吸や免疫、エネルギー代謝などの生理的機能を常に正常に保とうとするシステムです。自律神経やホルモン、組織・臓器のそれぞれが連携してバランスを取り合うことで、体温が一定に維持されたり、呼吸がスムーズに行われたりしています。
実証実験では、博物館を20~30分間見学すると、高血圧の人の血圧は見学前より下がり、低血圧の人の血圧は見学前より上がる傾向が見られました。博物館浴によって、血圧を適正値に戻そうとする恒常性が働いたためだと考えられます。以下はその代表的な事例です。
■高血圧*の高齢者は30分間の美術鑑賞で血圧が低下
*日本人の高血圧の基準は、収縮期血圧140mmHgまたは拡張期血圧90mmHg以上(日本高血圧学会による)。
■低血圧*の大学生は20分間の美術鑑賞で血圧が上昇
*低血圧の世界共通の基準は、収縮期血圧100mmHg、拡張期血圧60mmHg以下(WHO:世界保健機関による)。

博物館の見学前後でネガティブな感情が低下し、ポジティブ度はアップ |
心理測定では、ネガティブな項目(怒り-敵意、混乱-当惑、抑うつ-落ち込み、疲労-無気力、緊張-不安)の数値が見学後は見学前より低下、ポジティブな項目(活気-活力)の数値は上昇傾向が見られます。下記は2024年1月に民俗系と美術系、それぞれの博物館で行われた実証実験の結果です。
■民俗系・美術系博物館見学前後の【緊張-不安】の変化
*ネガティブな感情の一つ【緊張-不安】を20段階で評価した平均値。数値が低いほど【緊張-不安】の程度も低いことを示す。

一方、「活気-活力」の数値は、民俗系、美術系ともに上昇が見られました。
■民俗系・美術系博物館見学前後の【緊張-不安】の変化
*ネガティブな感情の一つ【緊張-不安】を20段階で評価した平均値。数値が低いほど【緊張-不安】の程度も低いことを示す。

福岡市内の高校生を対象に行った実証実験では、ネガティブな項目の数値がすべて下がり、特に「疲労-無気力」の数値に著しい低下が見られました。さらに、2024年6月と7月に東京の国立西洋美術館で行われた実証実験では、次の2パターンについても検証されています。
| □黙って鑑賞する「黙々鑑賞」と、同行者と会話を交わしながら鑑賞する「おしゃべり鑑賞」の違い □高齢者、大学生、会社員(育休復帰者含む)の違い |
結論としては、対象者の違いには関係なく、黙々鑑賞とおしゃべり鑑賞のどちらでも、心理測定(POMS)のネガティブな項目の数値が下がりました。日常を離れリラックスすることで、脳のスイッチが切り替わるのかもしれません。
博物館浴の3つの楽しみ方 |
とはいえ、博物館にあまり行く機会がないと「自分が行っても逆に緊張してリラックスできないのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかし、これまでの実証実験では「博物館によく行く人」でも「博物館にあまり行かない人」でも同じようにリラックス効果が得られることが分かっています。
また、博物館見学にあたっては「展示の説明などをじっくり読み込まなくてはならない」「見学時間をかけてしっかり学ばなくてはならない」といった心理的負担を感じる人が少なくないのも事実です。ところが前述の通り、実証実験では10~30分程度の見学時間でも良い影響があるという結果が出ています。博物館のジャンルも問いません。次の3つのスタイルを参考に、博物館浴を楽しんでみましょう。

ストレス社会で期待される「博物館浴」の効果 |
博物館浴への取り組みは世界的に広がっています。例えば、カナダでは2018年から医師会の主導で「博物館処方箋(ミュージアム・プリスクリプション)」が始まりました。患者さんの健康回復を促進する治療の一環として、医師が博物館への訪問を処方箋に書けば、患者さん本人と介護者や家族3人までが無料で博物館に入館できるというものです※2。この科学的根拠として、カナダの医師会では10年にわたり、「芸術鑑賞のリラックス効果」の検証が継続して行われました。
※2 https://observer.com/2018/11/doctors-prescribe-art-montreal-heart-condition-asthma-cancer/
その結果、博物館入場直前の唾液中のコルチゾールを測定し、入場した45分後に再度測定すると、コルチゾール値は入場前よりも著しく低下することが分かりました。コルチゾールとは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一種で、ストレスを受けると急激に分泌が増加することからストレスホルモンとも呼ばれます。芸術鑑賞するとストレスホルモンが減るのは、リラックス効果が得られたからにほかならないでしょう。
世界的に博物館浴が注目される背景には、現代社会で多くの人が抱える過度のストレスや、それによるうつ状態などの健康問題、子どもや若い世代の不登校や引きこもり、労働者の悩みなどの社会的問題があります。その解決のためにも目指したいのが、ウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に満たされた、健康で幸福な状態)です。芸術鑑賞や学びの場としてだけでなく、健康増進の場としても博物館を活用し、ウェルビーイングにつなげていきましょう。
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