ADVANCEコラム

労働基準監督署で指導が行われた長時間労働の実態について

働き方改革による生産性向上が大きなテーマとなった昨今、企業側が労働者の残業時間に目を光らせる場面も多くなっています。しかし長時間労働の問題は根深く、過労死のリスクが懸念される事例も後を絶ちません。その実態を昨年度の統計から確認しましょう。

厚生労働省の公表している「長時間労働が疑われる事業場に対する令和元年度の監督指導結果」では、長時間労働が疑われる32,981事業場に対して実施された、労働基準監督署の監督指導結果が取りまとめられています。それによると令和元年度は、監督指導実施事業場のうち25,770事業場で、労働基準法などの法令違反が確認されました。

法令違反が認められ是正勧告書を交付された事業場で、違法な時間外労働があったものは15,593事業場でした。そのうち時間外・休日労働の実績が最も長い労働者について、月80時間超と認められた件数は以下の通りです。

月80時間超~100時間以内・・・2,221事業場

月100時間超~150時間以内・・・2,834事業場

月150時間超~200時間以内・・・594事業場

月200時間超・・・136事業場

また、賃金不払残業があったものは2,559事業場、過重労働による健康障害防止措置が未実施のものは6,419事業場となっています。

監督指導の実施事業場で、健康障害防止のため指導票を交付したケースでは、過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したものが15,338事業場、労働時間の把握が不適正なため指導したものが6,095事業場でした。これは労働基準監督署が指導を行った件数のため氷山の一角とも考えられますが、過労死ラインとされる月80時間超の残業を強いられる労働者は依然として多く、企業側で労務管理等の改善が必要なことを物語っています。

上記の結果とともに公表されている事例の一つに、長時間労働を原因とする脳・心臓疾患の労災請求があった中小企業の事業場(小売業)のケースが挙げられています。労働基準監督署が立ち入り調査で把握した事実と、行った対応は以下の通りです。

 

<事実1> 脳・心臓疾患を発症した労働者について、36協定で定めた上限時間(特別条項:月80時間)を超える違法な時間外労働(最長:月103時間)が認められた。

対応:36協定で定めた上限時間を超えて時間外労働を行わせたこと、限度時間を超えられる回数を超えて時間外労働を行わせたこと(労働基準法第32条違反)について是正勧告。 また時間外・休日労働を月80時間以内とするための具体的な方策を検討・実施するよう指導を行った。

 

<事実2> 一部の労働者について、労働時間を把握していなかった。

対応:労働時間の状況の把握を行っていなかったこと(労働安全衛生法第66条の8の3)について是正勧告。また「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に基づき、改善に向けた方策を講じるよう指導を行った。

 

このように法令違反が確認されたケースでは、労働基準監督署による立入調査および是正勧告等が行われます。企業側が労働時間の状況を把握していなくても、厳しい対応が取られることに留意しなくてはなりません。

また、長時間労働による労働者の疾病等が労災認定された場合、事業主が巨額の損害賠償責任を求められることも考えられます。そのような事態を招かないためにも、企業側は労働者の労働時間および健康状態についてしっかり管理する必要があります。

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