ADVANCEコラム

新型コロナウイルス感染症により損失が生じた場合の法人税還付制度

新型コロナウイルス感染症が日本国内でも再度拡大の動きを見せる中、売上の予測が立たず頭を悩ませる企業が多く存在します。とりわけ店内の消毒徹底や、食材の廃棄を余儀なくされている飲食業などは深刻な状況です。損失の時期や内容によっては法人税の還付を受けることも可能ですが、どのような場合に利用できるのでしょうか?
青色申告書を提出する法人については、「青色欠損金の繰戻し還付制度」というものがあります。これは確定申告書を提出する事業年度に生じた欠損金額がある場合、請求によりその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰戻して、法人税の還付を受けられる制度です。従来は中小企業者等(資本金の額が1億円以下の法人など)に限り利用可能でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度で生じた欠損金額は、資本金の額が1億円超 10 億円以下の一定の法人も利用できるようになりました。
 もうひとつ挙げられるのは、「災害損失欠損金の繰戻し還付制度」です。これは「災害のあった日から同日以後1年を経過する日までの間に終了する各事業年度」または「災害のあった日から同日以後6月を経過する日までの間に終了する中間期間」において生じた災害損失欠損金額を、その災害欠損事業年度開始の日前1年(青色申告書を提出する法人は前2年)以内に開始した事業年度に繰戻して法人税の還付を受けられる制度です。こちらの制度は資本金の大小にかかわらず、全法人で利用できます。
「青色欠損金の繰戻し還付制度」と「災害損失欠損金の繰戻し還付制度」については、法人が適用要件等の範囲内で有利な方を選択することができ、2期以上ある還付所得事業年度のいずれに繰戻しをするかも実務上任意となっています。
国税庁から公表されているFAQでは、新型コロナウイルス感染症に関連して外出自粛の要請等が行われた際の、災害損失欠損金の範囲が以下のような例で述べられています。
【災害損失欠損金に該当する例】
・飲食業者等の食材(棚卸資産)の廃棄損
・感染者が確認されたことにより廃棄処分した器具備品等の除却損
・施設や備品などを消毒するために支出した費用
・感染発生の防止のため配備するマスク、消毒液、空気清浄機等の購入費用
・イベント等の中止により、廃棄せざるを得なくなった商品等の廃棄損
【災害損失欠損金に該当しない例】
・客足が減少したことによる売上減少額
・休業期間中に支払う人件費
・イベント等の中止により支払うキャンセル料、会場借上料、備品レンタル料
繰戻し還付の対象となる災害損失には、棚卸資産や固定資産に生じた被害(損失)に加え、その被害の拡大・発生を防止するため緊急に必要な措置を講ずる目的の費用が含まれます。被害防止の措置に直接要したと言えない費用は、対象から外れてしまうため注意が必要です。
 以上の制度活用により法人税の負担を軽減することは可能ですが、感染防止対策のコストや売上減少の影響を完全にカバーできるわけではありません。企業はコスト削減の徹底に加えて、新たな販売方法による売上確保など、引き続きシビアな経営判断が求められています。

【参照】財務省「欠損金の繰戻しによる還付の特例」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/brochure3.pdf#search=’%E6%AC%A0%E6%90%8D%E9%87%91

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