労災保険は労働者保護のための大切な制度ですが、給付をめぐって事業者側と対立するケースもあります。その背景に挙げられる保険料の上昇について、事業主の不服申立を可能とするかどうかの議論が行われています。ポイントを整理してみましょう。
◆労災支給決定に関する事業主の不服申立は認められていない
労働災害による保険給付の実績は、各事業主の支払う2~4年後の労働保険料に反映され、これを労災保険制度のメリット制といいます。保険料負担の公平性と労働災害防止の促進を目的としたもので、基本的には給付が行われれば保険料も上昇する仕組みです。
労災保険給付の支給決定件数は年間60万件を越え、精神疾患による労災認定も増えています。国が労災支給の早期安定等を重視していることから、現在は支給決定に関する事業主の不服申立や、支給要件非該当の主張は認められていません。
しかし労災支給処分の取消請求権を認めた判例もあることから、厚生労働省の「労働保険徴収法第12条第3項の適用事業主の不服の取扱いに関する検討会」において、制度運用見直しの議論がされています。
この検討会は被災労働者等の法的地位に係る十分な配慮を前提とした上で、特定事業主(メリット性が適用される事業主)が労働保険料認定決定に不服を持つ場合の対応検討を目的として開催されたものです。参加した行政法学者、労働法学者および制度の実務家により、事例も踏まえた意見交換が行われました。
◆制度改正で労働者が労災申請を躊躇してしまうケースも?
上記検討会の報告書では、特定事業主には労災支給処分の不服申立適格等が認められないという厚生労働省の立場は堅持した上で、特定事業主が保険料認定処分に不服を持つ場合の対応として、以下3点を含めた必要な措置を講じることが適当であるとの考えが示されました。
(1)労災支給処分の支給要件非該当性に関する主張を認める。
(2)労災支給処分の支給要件非該当性が認められた場合には、その処分が労働保険料に影響しないよう、労働保険料を再決定するなど必要な対応を行う。
(3)労災支給処分の支給要件非該当性が認められたとしても、そのことを理由に労災支給処分を取り消すことはしない。
これらの方針が具現化すれば、保険料上昇を理由とする「労災隠し」が、ある程度抑制されることが期待できます。その一方で不服申立によって支給要件非該当性が認められた場合、職場における被災労働者の立場が弱くなってしまう懸念があります。また、不服審査に時間がかかり損害賠償を求める訴訟の進行が遅れるケースや、労働者が労災申請を躊躇しまうケースも考えられます。
不服申立をめぐる制度運用が、労働者と事業主の対立を深める状況は避けたい所です。いくつかの団体では労災認定の取消請求権を認めた判例や、制度改正への反対を表明しており、今後の動向から目が離せません。
【参照】厚生労働省「労働保険徴収法第12条第3項の適用 事業主の不服の取扱いに関する検討会報告書」
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001022877.pdf
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